TOP  紹介  一次 二次 LOG Forum リンク 

会場に戻る

 

 

     

あの頃の私

 

 今はもう葉も枯れ落ち始めた桜の木。
 

 その桜並木が続く坂の下に、私はいた。

 数年前、私と、ここの生徒みんなで守った大切な桜の木。

 それは今も失われることなく、春になるとその身をいっぱいに輝かせ卒業生を見送り、新入生を迎えている。

 そんな事実が今の私には嬉しくてしかたがなかった。

 

 昔の私は、そこいらの不良も恐れるほど荒れていて、私自身、怖かった。

 これから、私はどうなるのか。

 このままこうやって誰も信じることができず、一人で生きていくのか、と。

 でも情緒が不安定だった私は、それでもいいのかもしれないと思えてしまう時もあった。

 こんな女の子らしくない女が、誰かに愛されるなんてありえない。

 ずっと、そう思っていたから。

 

 

 

 

 

 少し寒そうな桜を見上げながら、坂を上っていく。

 この坂の上には、私の大切な思い出が詰まった高校がある。

 たくさんの人と出会い、別れ、そして私はここでかけがえのないものを見つけた。

 自分には永遠に訪れることもないと思っていた感情が、溢れるほどに。

 そして今も、私はかけがえのないものを見つけた。

 

「おーい!智代っ!」

 

 それは校門のところに立って大きく手を振りながら私を呼んでいた。

 私の旦那様だ。

 

「朋也っ」

 

 その姿を見つけて、こんなにも心が躍る。

 これから彼に告げることのせいもあるのか、少し高鳴る鼓動を隠すように私は朋也の元まで走り出した。

 それを見て、私の旦那様は優しく微笑んだ。

 私の大好きな笑顔だ。

 

「んじゃ行くか。みんなが向こうで待ってる」

「ちょっと待ってくれ」

 

 校庭の方に向かって歩き出した朋也の袖をキュッと掴んで引き止める。

 不思議そうに私のほうに振り返って体を向き直らせてくれた。

 言わなければ………。

 で、でもいざとなるとなんて言うか、恥ずかしいな………っ。

 

「……どうしたんだ、お前。熱でもあるのか??」

「いや、そうじゃなくて、だな………」

「??」

 

 朋也は怪訝そうな表情で私をまっすぐ見る。

 半分以上の嬉しさと、残りの不安。

 それを受け止めてくれることを願って、意を決して口を開いた。

 

「その、驚かないで聞いてほしいんだ」

「ああ、どうした」

「あの、な……?」

「ああ」

「………」

「……智代?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……子供ができたんだ。私と、お前の」

「………へ」

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人とも押し黙ってしまった。

 やっぱり、朋也にとっては迷惑なことだったのだろうか。

 そう思われるのではないかと、考えたくなくても、不安だった。

 朋也にとっては負担でしかないのかもしれない。

 そんなことを思っていたときだった。

 冷たい外気がまるで春の陽気のような暖かさになって私を包んだ。

 朋也だった。

 ぎゅっと、抱きしめてくれたのだ。

 

「と……や?」

「ありがとう」

「え……?」

 

 意外な一言が朋也の口から聞こえて、朋也の胸の中から顔を見上げると。

 そこには本当に嬉しそうに微笑んでくれる愛しい人が。

 目にうっすら涙を浮かべながら力強く抱きしめてくれて。

 

「俺は、幸せ者だな」

 

 

 そんなことを言ってくれる。

 ……なあ、朋也。

 それは私の台詞だぞ。

 周囲のみんなは朋也との結婚を、どうしてだとか、ありえないだとか、挙句の果てには可哀想に、なんてことまで言われたけれど。

 やっぱり私はお前に会えて、お前と付き合って、結婚できたこと、最高に幸せなんだ。

 私だけをずっと愛してくれて、守ってくれる。

 どこの嫁よりも私は幸せ者なんだ。

 

 

 私は、朋也の広く逞しい背中に腕を回して抱きしめ返す。

 そして、今感じた事を思い返して小さく笑ってしまった。

 すると朋也が不思議そうに私を見下ろしているのに気づく。

 

「なんだよ」

「いや……不思議だな、と思って」

「不思議?何がだ?」

「あの頃の私からでは、今の私は全く想像もつかないようなところにいるんだ」

「こんな不良男と結婚してるしな」

 

 笑って茶化す朋也に、私はゆっくりと首を振った。

 

「違う。こんな素敵な人と結婚している、ということだ」

 

 まっすぐ見つめて言うと、朋也は少し頬を染めて黙ってしまった。

 そう素直に反応されるといった私も恥ずかしくなってしまうじゃないか。

 だが、そんな朋也を置いて私は続ける。

 こんな日だからこそ言わなければいけない気がするからだ。

 

「あの頃の私は、家族でさえも信じられなくて、本当に一人だった。そしていつも描く未来は、一人だった」

「………」

「それが滑稽で、それでいて笑えるくらい悲しかった」

「智代………」

「でも、今の私は違う。大好きな人に愛し愛されて、怖いくらい幸せな日々を送っている。
そして……」

 

 私は、自分のお腹をゆっくりとさすった。

 見た目にはまだなんら変化はないが確実にそこにある、新たな命。

 私と、朋也の愛の形。

 

「大好きな人の子供にも恵まれた。」

「……ああ」

「だから昔の私が考えていたこととは違いすぎて笑えてしまったんだ」

「これから、俺たちで新しい未来をどんどん作っていけば良いさ。そしたら智代は毎日のように笑うハメになるけどな」

「それじゃ私は変な子じゃないか」

「いや、俺の自慢の嫁だ」

 

 

 さっきの仕返しと言わんばかりに悪戯っぽく笑って見せた朋也。

 まったく、仕方のない奴だな。

 そう思いながらも笑って返す。

 

「智代の誕生日の日に、俺にとってもこんなに嬉しい知らせが聞けるなんてな」

「もしかしたら次の朋也の誕生日には双子になってたりしてな」

「それもいいかもな」

 

 2人見つめあって笑い出す。

 そんな幸せな時間がここにはある。

 と、朋也はそっと私の手をとった。

 その大きな手にまた自然と笑みがこぼれる。

 

「じゃ、そろそろみんなのところへ行こう。こんなところで体を冷やしたら子供にも悪いしな」

「うん。しかしこの年で誕生日パーティなんて、なんだか恥ずかしいな」

「いいんじゃねえの?子供の頃はそういうのしたことないんだろ?」

「うん……」

「それに、お前が生まれてきてくれたことをみんな祝いたいんだよ。俺もみんなもおまえのことが好きだからな」

「…ばか」

 

 朋也は隣で歩きながら、いつもの優しい声で言ってくれた。

 

 

 

「誕生日おめでとう、智代」

 

 

 

 今日一番聞きたかった言葉。

 一番言ってほしい人から聞けた言葉。

 ありがとう。

 私もそう呟きたくなった。

 そんな10月14日。

 最高の誕生日をありがとう。

 

 

 

あとがき
クロイ様、時間ぎりぎりですみませんでした!
そして駄文ですみません!!
やっぱりトモトモ最高だーって叫びながらこの日ははっちゃけようと思います(笑)
いつまでも、2人に幸あれ☆

cielo

 

 

会場に戻る

TOP  紹介  一次 二次 LOG Forum リンク